※現役小児科医が教える※NICU退院後の未熟児の外来フォローはこんな感じだ!

NICUに入院した未熟児は、退院後も成長や発達の問題が生じるリスクが通常より高いことがわかっています。

そのため多くの施設において、未熟児はNICU退院後も定期的な小児科外来への受診を勧められます。

ここでは、NICU退院後の未熟児の成長や発達の特徴をお示しするとともに、小児科外来での成長や発達の確認の重要性についてご紹介します。

 


NICU退院後の未熟児の成長


未熟児はもともと出生時の体格が小さいですが、多くの児はNICU退院後に正期産児の体格に近づき、母子手帳の成長曲線の”枠内”に入ってきます。

1歳くらいまでに枠内に入ってくる児が多いのですが、超低出生体重児(出生体重が1000g未満で出生した児)など出生時にかなり体格が小さかった児や、NICU入院中の成長がゆっくりだった児(子宮外発育不全)、SGA児の一部では母子手帳の成長曲線の”枠内”に入ってくるまで2~3年かかる場合もあります。

SGA児とは、Small for Gestational Age児の略で、在胎期間毎の出生体重の基準と比較して、相当小さい場合にさして言う医学的な専門用語です。

多くの未熟児が3歳までには成長曲線の”枠内”に入りますが、一部はかなり小柄なままの児もおり、3歳までに成長が追いつかない場合には、その後も低身長になるリスクがかなりあると思ってよいでしょう。

低身長症の目安(-2SD)は、成人身長が男児で159㎝未満、女児で148㎝未満くらいと考えてください。

未熟児はこの身長よりも、無治療の場合にはかなり小さくなることが予想される場合もあります。

SGA児で3歳までに成長曲線の”枠内”に入らない場合には、「SGA性低身長症」として成長ホルモン治療を行える場合があります。

残念ながらSGA児ではない未熟児の場合には、3歳までに体格が小さいままだとしても、成長ホルモン治療を行うことはできない場合がほとんどです。

そのような児では大人になってからもかなり身長が低くなるリスクがあります。

全体としては、未熟児の成人期の身長は正期産児と比較して小さくなりやすい傾向があり、一般的に正常な範囲の身長だとしても、下記の式を用いてお父さんとお母さんの身長から算出される予想身長よりも低めになる人が多いでしょう。

両親の身長から算出する身長の予測式

男子= (両親の身長の合計+13)/2+2

女子= (両親の身長の合計−13)/2+2

未熟児の低身長症は、SGAなどの条件が満たされれば、成長ホルモンなどの治療を受けられる場合がありますので、担当医に相談しましょう。

 


未熟児の発達


未熟児の神経発達の見込みは、生まれた時の在胎週数や出生体重の影響を強く受けます。

出生時の状態が未熟な児ほど、発達の遅れや発達障害をきたすリスクが高いのが現状です。

生まれた後の成長も重要で、NICU入院中の成長が順調で、正期産児の胎児発育に近い成長が得られる場合には、神経発達もよくなりやすいことがわかっています。

出生時に特に未熟性の強い児では、脳室内出血や脳室周囲白質軟化症などの脳の合併症をきたすリスクがあり、そのような合併症を生じた場合には、発達の遅れや麻痺などが生じやすくなります。

その程度のよっては、NICU入院中にすでに発達の遅れや脳性麻痺が回避できないことが予想される場合もあります。

このような重大な脳の合併症をもたない場合でも、未熟児は通常よりも発達の遅れや発達障害のリスクが高いことがわかっており、NICU退院後は小児科外来で発達の確認が勧められます。

特に、極低出生体重児(出生体重が1500g未満の児)では、定期的に発達検査を施行することが全国的にガイドラインで勧められています。

早産児(特に未熟性の強かった児)の発達は3歳くらいまでは修正月齢で評価することが一般的です。

例えば3か月早く生まれた早産児では、生後3か月は分娩予定日なので、この3か月を考慮した月齢(修正月齢)で発達を確認していくのです。

この場合、生後7か月が修正4か月となるので、この時期の周囲に首のすわりを確認することになります。

運動機能やことばの発達を確認しながら、必要があれば発達を促すための療育などを行うことになります。

乳幼児期までの発達に大きな問題はないと判断されていても、一部は自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動症、学習障害などの発達障害の診断を受ける場合があります。

早産児、低出生体重児などの未熟児全てに特別なフォローアップは必要ないと思いますが、少なくとも極低出生体重児などのハイリスク児では、小学校就学後もフォローアップが必要と考えられています。

ただ心配しすぎないでください。

少し小さくてNICUに入院した・・・くらいの未熟児なら、何も問題がない方が大部分ですし、極低出生体重児であっても、このような問題が多くの方で認められるというわけではありません。

 


ご家族の心の持ち方


成長や発達には個人差があるものです。

正常な発達の中にもバリエーションはあるのです。

しかし乳幼児期のお子さまをもつご家族は、周りの同年代のお子さんと比較して、自分の子を判断してしまいがちです。

特に未熟児で発達の遅れや発達障害のリスクがあると聞くと、心配せずにはいられない気持ちがあるのは当たり前のことなのかもしれません。

ただ・・・・

「○○さんはもうお座りができた」

「○○くんはもう歩き出した」

「○○ちゃんはもうしゃべってるよ」

このようなママ友間での会話はわが子の成長・発達に不安を感じているご家族にとっては、その心配を助長させるのには十分なものです。

でも、他人と比較してわが子の発達の心配をしても、何ら状況は好転しませんし、不安な気持ちになるだけです。

他人と比較するのではなく、お子さん自身の成長をみて感じてあげてください。

生後早期には発達がゆっくりめだった子でも、就学前くらいになる頃にはずいぶんできることが増えて、ほとんど問題ないという人も少なくありません。

1か月前にできなかったことができるようになった・・とか、そういった小さな喜びを感じていくことが大切なのだと思います。

 

残念ながら、発達の遅れや脳性麻痺、発達障害などが明らかになったご家族もいることでしょう。

障害があるからといって、必ずそのこどもが将来不幸せになるわけではありませんが、この世の終わりかと思うほどのショックを受けるご家族の方もいると思います。

ただこのような場合であっても、やはり他人と比較するのではなく、障害はあったとしてもその子の成長を感じて見守っていくことが大切なのだと思います。

「それはきれいごとだ」

「そのような心境にはなれない」

と感じるご家族も多くいることでしょう。

障害を一つの個性と考えられれば確かにとても素敵なのですが、当事者からすればもし障害がなかったら・・と考えてしまい、つらい気持ちになってしまう方がむしろ普通と思います。

日本はまだまだ障害のある方やその家族に対する理解も、社会的なサポート体制も不十分であり、それがご家族の不安を増強します。

そして、特に重い障害のある児を育てるご家族の心理的・経済的負担は我々の想像を超えたものであると思います。

受け入れていくことには時間が必要ですが、最終的には前向きな気持ちになれるように、皆がサポートしていけるような社会を作っていくしかないのだと思います。

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