※現役小児科医が教える※赤ちゃんはいつから飛行機に乗せていいの?

時折、健診で赤ちゃんを飛行機に乗せて大丈夫なのかというご質問を受けることがあります。本記事では、赤ちゃんの飛行機問題について小児科医として意見を述べたいと思います。

赤ちゃんの旅行、お出かけに伴う感染症リスクをどう考えるか

赤ちゃんが生まれると家族の行動は制限されるものです。旅行に行くことも難しくなりますし、レストランや買い物に行くのも躊躇しますよね。生まれたばかりの赤ちゃんは感染症に弱いものです。生後3ヶ月以内(特に生後1ヶ月以内の新生児)の赤ちゃんは、お母さんのお腹の中でお母さんからもらった免疫の力(=抗体)によって守られているので、風邪などをひきにくいことが知られていますが、その反面自分の免疫の力はとても弱く、発熱時は重症感染症を想定した管理が必要となります。なかには命に関わるような感染症もありますから、この時期は不要な感染症への接触機会を減らすための最大限の配慮が必要です。

もちろん、お食事を準備するためには買い物にいかなくてはいけないですし、ご兄弟がいれば幼稚園や保育園まで赤ちゃんを連れて送り迎えせざるを得ないということもあるでしょう。単純に赤ちゃんだけのことを考えるなら、そのような感染機会は少ない方が良いのですが、これは可能な範囲でどこまでやるかという話であって、生活のためにせざるを得ないのであれば致し方ありませんし、それを否定するものではありません。なるべく人混みを避ける、風邪をひいている人には近づかないようにする、などの配慮をすれば良いと思います。

逆に生後6ヶ月もすると、お母さんからの免疫の力(=抗体)の効力も無くなりますから、否が応でも風邪などの感染症にかかっていく時期です。遅かれ早かれ感染症に罹患して抗体を獲得する時期なのですから、過度に感染症を避けるために行動範囲を制限する必要はないと思っています。保育園などで感染症に繰り返し接触する環境が良いかどうかは別としても、あまり過度に心配し過ぎることはマイナス面の方が大きいのではないかと思います。もちろんこれは積極的に感染症に罹患させるべきという意味ではありませんが…。

生じうる機内での問題

よく飛行機にのると気圧の変化で耳が痛くなるのではと心配される人がいます。鼓膜の内と外での気圧差がこの痛みの原因なので、嚥下によって耳管を開かせれば、この痛みは予防、緩和できます。具体的には、赤ちゃんであれば授乳を、比較的大きな乳幼児であればあめをなめさせるなどすればある程度なんとかなるものです。耳が心配だからという理由で飛行機を避ける必要はありません。ただし風邪などひいていて、鼻がつまっていると、なかなか痛みが緩和しないことがあるので注意が必要です。まあ注意するとはいっても生後早期は風邪をよくひきますし、あらかじめ予測できるものではありませんから、その時は旅行自体を中止するか、気合いで乗り切るしかないでしょう。旅先での症状の悪化は予想以上のトラブルにつながる可能性があるので、症状が重い場合は涙を飲んで中止を決断する勇気も必要かもしれません。

機内で泣き止まないときの対応にも困ることありますよね。特に小さな赤ちゃんで離着陸時に泣き止まなくなると、立ってあやす事ができないこともあり、大変難しい対応となります。小児科医の中でも、赤ちゃん用の睡眠薬をお守りがわりにもっていきたいと考える医師もいるようです。赤ちゃんをあやすグッズ、お気に入りのタオルケットやぬいぐるみを準備する、授乳時間を調節して離着陸時に寝るように仕向ける、最後は諦めるといった感じでしょうか。耳が痛いのではと感じるなら授乳するのも良いと思います。

赤ちゃんはいつから飛行機に乗せてよいか?

とにかく感染機会が増えるという意味では、生後3ヶ月以内(特に生後1ヶ月以内の新生児)の赤ちゃんの飛行機はお勧めしません。…というより旅行そのものをお勧めしません。ただ、里帰り分娩のあととか、生まれてから祖父母に会わせるために実家に戻りたいという場合もあるでしょう。できれば赤ちゃんの移動は避けるべきと思いますので、祖父母にきてもらうか、実家に帰省する時期を遅らせる、どうしてもという判断なら、なるべく感染症に接触しない方法(可能なら車での移動など)を考慮すべきでしょう。それでもやむを得ない事情で飛行機に乗りたいなら、なるべく繁忙期を避けるとか、人混みを避けるなどできることをするしかありません。

生後3ヶ月から6ヶ月は、グレーゾーンです。個人的にはやはり単なる旅行なら避けるべきと思います。飛行機に乗ることが避けられないなら、空港までの交通機関や空港内の移動は極力配慮します。僕は小児科医なので、自分で「これはやばい」というのがわかるので対応のしようがありますが…その一方でたくさん重症な事例を見ているので、運が悪ければ旅行を後悔する可能性は多分にあると感じてしまいます。まあ、そこは自己責任で決めるしかないでしょう。まあ大丈夫だと思うのですが、職業病なのかな…。僕は基本的に慎重な性格です。

生後6ヶ月以降の飛行機利用は基本的にフリーと思っていますが、前述のように風邪などひいていれば、グズって機内での対応に困ったり耳が痛くなりやすかったりするので、特に感染症の多い2〜3歳頃まではある程度覚悟は必要でしょう。旅先で具合が悪くなった時に受診する病院の確保や常備薬の準備などはしておきたいところです。

ちなみに気にする人はほとんどいないと思いますが、飛行機で海外に行くとそれなりの自然被曝を受けるんですよね。原発の放射線被曝やレントゲンの医療被曝はものすごく過剰に気にするのに、旅行が大好きでよく飛行機で外国に行く方がいました。蛇足になりますが一応……。

兎にも角にも、赤ちゃんだから飛行機はダメということはありません。今は各飛行機会社が赤ちゃんの登場に配慮したサービスを行っています。ただ機内で起こりうる問題のシミュレーションをして、いざその時に慌てないようにすること、旅行自体のリスクを十分理解することは、とても大切だと思います。

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