虐待が連鎖するのはなぜか

虐待された子が大人になって自分の子を虐待してしまうのはなぜか?そこには実は根深い問題が隠れているかもしれない。最新の科学(DOHaD学説)で説明する虐待の真実とは・・・

自分の子にイライラしてしまう

最近、こどもへの虐待がたびたびニュースになっています。時に体や心に重大な傷を負ったり、虐待が原因で亡くなってしまう子さえいることを知ると、本当に悲しい気持ちになります。

もちろんどんな理由があるにせよ、虐待は許されることではありません。なんでこんなことが起こってしまうんだろう・・・自分のこどもが可愛くないのかな・・・と不思議に思う反面、一概に普通ではない人が起こした稀な事件と片付けていいのだろうかと思うこともあります。これは、自分とは無関係な別の世界の話ではなく、自分の身近でも起こりうる話だと感じるのです。もちろん半ば信じられないような行き過ぎた事例というのも存在します。今回は、そのような事例を除外して考えてみてください。

しつけや体罰との境目が難しい事例は確かにありますし、子育て中のご両親が自分のこどもに対して必要以上にいらいらしてしまったり、実は虐待にまで至らなくともそれに発展しかねない事例は実はけっこうあるのではないかと思います。それでも一線を超えないのが通常の子育てだとは思うのですが・・・・こどもにやさしくできなかったとか、自分のいらいらを抑えられず、大きな声でどなってしまったとか、手をあげてしまったとか、もしかしたらケガさせそうになったとか、子育てを経験している親御さんならたいていそれに近いことは経験しているのではないでしょうか?もしかしたら、虐待する親の気持ちも分からなくはないと感じる方さえいるのではないでしょうか?

いろいろな理由はあるにせよ、我々大人も人間です。理想的にはそうすべきではないとわかっていても、日々の生活に追われ、心の余裕もなく、不満を抱えながら生きていれば、子どもへの接し方にそれが出てしまったって不思議ではありません。もちろん程度の問題はありますが・・・・。そんなふうに考えると、そのいらいらの延長線上にもしかしたら虐待が起こりうるという可能性を感じませんか?もしあなたが人より5倍、10倍いらいらしやすい性格だったらどうでしょうか?しかも手助けしてくれる人もおらず、子育ての助言をしてくれる友人もおらず、子育て以外にもストレスを感じる毎日だったら、それが子供に向かないと言い切れますか?

遺伝子や小さいころの環境が性格を決める

虐待された子が大人になって、今度は自分が自分の子に虐待してしまう事例があるということをよく耳にします。自分がされて心に傷をおった子が今度は大人になって自分の子にそれをしてしまう、このような負の連鎖がなぜ起こってしまうのでしょうか?少なくとも一部の人は、自分がされた虐待を自分の子には決してしないと思っていたのではないでしょうか?それなのになぜ・・・・?

もしかしたら、自分が育ってきた虐待を受けた環境からは、いわゆる良い母親像・父親像をイメージできず、どういう母親・父親であればよいかがわからなかったというのは理由としてあるのかもしれません。私たちは知らず知らずのうちに、周囲の人の影響を受けて知らず知らずのうちにそれを模倣しますから・・・・。それから、貧困の連鎖というのも少なからず影響している場合もあるでしょう。また、「暴力はいけないこと」とか「人を傷つけない言葉の使い方」とか小さいころに教育されてこなかったことも影響を与えているかもしれません。ただ、僕はDOHaD学説に関するある研究結果を知ってから、場合によっては本人の努力でどうにかできることではないのかもしれない・・・と思うようになりました。

それは以下のような研究です。

幼少期に虐待を受けた猿は、脳と血液の4000以上の遺伝子の働く部位が異常に調整されるようになり、それが猿の行動や性格に影響を与えるというのです。

DOHaD学説とは、「子宮内や生後早期の環境が、遺伝子の働きを後天的に調整することで、体質が変化する」というものです。ここでいう体質とは、主に病気のなりやすさを示していますが、知能指数や性格なども含まれます。この虐待に関するDOHaD研究は、まだ十分人で証明されている事実ではありませんが、遺伝子の働きの調整がされやすい子宮内で過大なストレスを受けたり、生後早期に虐待されたことで、その人が自信を持ちにくくなったり、攻撃的な性格になったりということが、遺伝子レベルで調整されている可能性があるということは大変重いことだと思います。これって病気ではないのかもしれませんが、必ずしも本人の気合や思いの強さだけで克服できるものではないと思うからです。ちょっとしたことでストレスを感じやすい、イライラしてしまう、そのようなことは誰だって起こりうることですが、それが極端なのだとすると気の毒な気がします。そう考えれば虐待をする親自体も本当はサポートされるべき対象なのかもしれません。うつ病の方がやる気がおきない場合に、気合が足りないせいだと考える人は今やいないでしょう。虐待をする親、虐待された子の関係は、文字通り負の連鎖となって継承されてしまう危険があるとすれば・・・・大変大きな問題と感じます。

このような負の連鎖を断ち切るには・・・やはり周囲のサポートが必要なのだと思います。ただ一方で、個人や家族のサポートにも限界はありますから、何らかの形での社会的なセーフティーネットが必要なのかなと個人的には思っています。DOHaD学説で生じるこのような後天的な変化は、エピゲノム変化という遺伝子の化学的修飾によって起こることがわかっていますが、これは良い環境に暴露されることで戻りうることもわかっています。つまり、早期にこのようなこどもに介入することで、望ましくない変化を回避できる可能性があるということがわかっているのです。

理想的な親でいることはやはり難しいけれど、皆が協力し合って負の連鎖をこどもたちに伝えないようにすることが、何よりも大切なのではないかなと思っています。

 

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