DOHaD学説を知ろう
太りやすい体質 太りにくい体質
「私って太りやすい体質なんだよね」
「あの人あんなに食べてるのにやせ体型だよね」
こういうことありませんか?
もしかしたら「たくさん食べてもなかなか太れない」という悩みを持っている人もいるかもしれません。
このように、生まれつき太りやすい人、太りにくい人がいるというのは、なんとなく感覚的には理解できると思います。
でもこれって本当に生まれつきなんでしょうか・・・・
実際に生まれつき太りやすい体質の人、太りにくい体質の人というのは存在します。
例えば、欧米の方は日本人より平均的には太りやすい傾向があると思います。
もちろんこれには食生活の影響もあるのですが、根本的に日本人は欧米の方と比較すると太りにくい体質であることが関係しています。
これは遺伝子の違いによるところが大きいのです。
遺伝子とは体を作るための設計図みたいなものですので、太りやすい設計図、太りにくい設計図というものが実際に存在しているのです。
「ああ、私も太りにくい体質だったらよかったのに」なんて思ったことある人も多いのではないでしょうか。
でも皆さん、このような体質は実は生まれつきの要因(=遺伝子)だけで決まっているわけではないことをご存知ですか?
体質は胎児期や生後早期の環境の影響を受けて変化したものなんです。
生涯の体質というのは、胎児期や生後早期の環境の影響を受けておおきく変化することが、最近の研究から科学的に証明され明らかになっているんです。
少し難しい言い方をすると、一般に遺伝子自体は精子と卵子が受精した時からずっと変化しないものなのですが、どの遺伝子が働くのかは、子宮内や生後早期の環境の影響をうけて決定されることがわかっているのです。
このような概念は、最近DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)という専門用語で知られるようになってきました。
子宮内環境とメタボ
例えば、妊娠しているお母さんの栄養状態が悪いと、おなかの中の赤ちゃんは小さくなりやすいことがわかっていますが、このような赤ちゃんは将来、小柄で体脂肪がつきやすい体質になりやすいことが知られています。
小さく生まれた赤ちゃんは、将来メタボになりやすいことがわかっているんです。
未熟児を対象とした研究では、生後最初の数週間の栄養摂取量が少ないほど、成人期の筋肉量が少なく、基礎代謝がおちる(太りやすい体質になる)こともわかっています。
大変興味深いですよね。
最近まで日本では平均の出生体重が低下してきており、低出生体重児(出生体重が2500g未満の児)の増加が問題となっています。
一般的に出生体重はその国の経済状況を反映することが多く、先進国では出生体重が大きく、発展途上国では出生体重が小さいのが世界的な傾向なのです。
そういった意味で、日本は先進国なのに、赤ちゃんの出生体重が小さくなってきている珍しい国なんです。
最近、日本人の出生体重が小さくなってきた理由として、妊娠中、妊娠前からの女性のやせ志向の問題が指摘されています。
あなたの赤ちゃんに、子宮内や生後早期の理想的な成育環境を提供することは、将来のお子さんにとって非常に重要なことなんです。
環境が人格をつくる
実は、このような「環境が人をつくる」という事実は、太りやすい、太りにくいなどの体質に限定して生じるわけではないということも重要です。
例えば、最近の研究では、幼少期に虐待を受けた猿は、脳と血液の4000以上の遺伝子の働く部位が異常に調整されるようになり、それが猿の行動や性格に影響を与えていることが指摘されています。
人においても幼少期に虐待を受けた人は、攻撃的な性格になったり、自分に自信がもてなかったりすることが言われています。
「あの人は怒りやすい性格だ」
「私はすぐにイライラしてしまう」
もちろんもって生まれた性格というものもあります。
ただ虐待云々ではないとしても、その人が幼少期までにどのような環境で育ったのか、ということは、その後の性格形成にとって非常に重要なのです。
これって感覚的には理解できますが、遺伝子レベルでそういった制御がなされているのだとすると・・・・親の役割って大きいですよね。
子育てについて小児科医として思うこと
子育てって本当に大変です。
ストレスも多いし、本当にうまくいかないことばっかりです。
そんなこと気にしてる余裕などない人も多いのかもしれません。
ただ・・
「今よりたくさんお話しを聞いてあげる」
「もっと愛情いっぱいで接する」
「家族の時間をもっと大切にする」
なんでもよいと思うんです。
その積み重ねが、あなたのお子さんを作っています。
ただ一方で、今の日本の社会では、子育ての負担がお母さんに集中している場合が多いですよね。
もっと社会全体で子育てについて考えなくてはいけない時期にきているのではないかと個人的には思っています。
もっと余裕のある子育てができる社会であったら素敵ですよね。