未熟児は慢性腎臓病になりやすい!将来透析が必要な事態を回避するために注意すべき3つのこと

未熟児(早産児や低出生体重児)は、将来大人になるに従ってさまざまな病気になりやすいことがわかっています。

慢性腎臓病もその病気のひとつです。

早産児や低出生体重児の一部では、小児期にすでにこの慢性腎臓病を発症してしまい、その後は薬を飲み続けなくてはいけない人もいるくらいなのです。

本記事では、未熟児が慢性腎臓病を悪化させないために注意しなくてはいけない3つのことを紹介します。

慢性腎臓病とは

慢性腎臓病は腎臓の機能が少しずつ悪くなっていく病気です。基本的に腎臓の機能は加齢とともに悪くなっていくものなのですが、これが寿命よりずいぶん早く損なわれていき、腎臓の機能を果たせなくなってしまいます。

腎臓の機能は尿をつくることです。尿をつくることにより、体の中の老廃物を尿の中に排泄したり、いらない水分やミネラルの調整などもおこなっています。そのほかにも、腎臓では赤血球を作るホルモンを分泌したり、骨をつくるビタミンDの機能を活性化させる働きもあり、大変重要な臓器です。

腎臓の尿をつくる機能の単位を「ネフロン」といいます。腎臓はこの「ネフロン」がたくさん集まってできており、ネフロン一つひとつが尿をつくる装置と考えてください。一つの腎臓当たり、このネフロンが約100万個あるといわれていますが、これには人種差や個人差も大きいことがわかっています。実際最近の研究では、日本人はこのネフロンが少ない傾向があることもわかっています。慢性腎臓病では、このネフロンが少しずつ抜け落ちて少なくなっていくようなイメージで考えるとよいと思います。ネフロンが少なくなった結果、残ったネフロンが頑張って尿を作らなくてはいけないので、負担がたまって限界を超えるとまたネフロンが減っていくような悪循環に陥っています。そして一度失われたネフロンを増やす手立ては現状ではないことが大問題です。

未熟児(早産児や低出生体重児)が慢性腎臓病のリスクが高い理由は、このネフロンが生まれつき少ないことと関係しているといわれています。生涯のネフロン数は出生時の状況、例えば出生体重や生まれた妊娠週数でかなりの部分が決まってしまうことがわかっているからです。そうすると、少ないネフロンの数で一生、腎臓の機能を果たしていかなければなりません。最初の頃は少ないネフロンで頑張るのですが、徐々に負担に耐えられなくなってネフロンがさらに減っていくことになります。力尽きて腎臓の機能を保てなくなり始めた状態が慢性腎臓病です。そして、その行きつく果てが透析が必要な状態(腎臓の機能を透析により代わりにやってもらう状態)というわけです。

 

早期にみつけることが大切

腎臓は慢性的にその機能がいったん失われると、回復させてあげることは現状としては不可能ですので、最終的には透析が必要になってしまいます。このような事態を回避するためには、早い段階で慢性腎臓病に気づき対応していく必要があります。特に、未熟児は出生時からネフロン数が少ないことで潜在的に慢性腎臓病のリスクがあり、比較的早期から慢性腎臓病を発症しやすいのです。小児期とか若年成人期に慢性腎臓病を発症してどんどん悪化させてしまったら・・・・残りの人生が長い分大変な思いをすることになります。

ただ慢性腎臓病を早期に見つけることが難しいのですが、これは慢性腎臓病は病初期は全くの無症状であるからです。まずは、蛋白尿などの検査所見の異常で気づくことになります。また高血圧などからみつかることもあります。小児の慢性腎臓病は思春期頃に悪くなりやすいので、この頃に発症するこどもが時々いますが、多くは学校検尿が気づくきっかけとなります。ただし、1年に1回の学校検尿だけでは十分確認できないとの考えから、最近は特にリスクの高い未熟性の強い児(出生体重が1500g未満の極低出生体重児など)の場合には、学校検尿以外に定期検診をした方が良いと考える医師も多くなっています。現在、このような児の外来フォローアップのガイドラインの改定作業が進みつつあります。

早期に対応できれば飲み薬で進行をかなり防ぐことができるので、未熟児で出生した方、特に極低出生体重児など出生時の未熟性の強かった児は、学校検尿や病院での健診で定期的に尿検査をすることをお勧めします。これは大人になってからも同じです。今はまだこのような認識が医師の中でも十分知られていないので、ご存じない内科の先生も多いと思いますが、未熟児は現在大変増えていますので、将来的には大きな問題になる可能性が高いと思っています。かかりつけ医や、それこそ勤務先の健康診断でも構わないので、しっかりと定期的に検査をお受けになる方が良いと思います。

数年前に極低出生体重児を対象とした成人期の問題を確認するための研究に携わりましたが、極低出生体重児では20歳前後にすでに約10%がこの慢性腎臓病が疑われる結果でした。この研究を契機に発見された人もおり、やはり病初期は無症状であるため検査をしないとわからないものなのです。

「しっかりと定期的に尿検査など健診をうけること」 

これが将来透析が必要な事態を回避するために注意すべきことの1番目です。

生活習慣病に注意

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、慢性腎臓病を悪化させる要因として大変重要です。また、不規則な生活は腎臓に負担をかけますので、睡眠不足や過度なストレスは望ましくありません。

ここで重要なのは、未熟児(早産児や低出生体重児)は、慢性腎臓病だけではなく、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も発症しやすいこと、体脂肪がつきやすく、メタボリックシンドロームのリスクも高いことがわかっていることです。

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慢性腎臓病のリスクのもとになっているのは、生まれつきネフロン数が少ないことと関係しており、これはどうにかなるものではありません。しかし、体脂肪がつきやすいことや、生活習慣病を発症しやすいことは、生まれた後の食習慣や運動習慣とも密接に関わっていますから、ここの部分は介入しうる部分なのです。

未熟児(早産児や低出生体重児)は筋肉がつきにくく体脂肪がつきやすい体質になっています。そういう体質なのは仕方ないのですが、これは運動や食事によってある程度是正可能です。運動によって筋肉がつけば基礎代謝があがって太りにくくなるのは、未熟児であっても同じだからです。

「規則正しい生活、よい食習慣、適度な運動習慣を獲得すること」 

これが将来透析が必要な事態を回避するために注意すべきことの2番目です。

 

腎臓に負担になる薬

腎臓にダメージを与えうる薬というものがいくつかあります。

慢性腎臓病の悪化を回避するためには、可能な限りこのような薬を使用しないことが必要です。もちろんこれは、ご本人というより僕たち医師が気をつけるべきことですが、ご本人も知っていた方が良いと思います。

有名なものだと、アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシンやアミカマイシンなど)、非ステロイド系抗炎症薬(イブプロフェン、バファリンなどのNSAIDs)、血管造影剤(造影CT検査などで使用)などがあげられます。もちろん、これは病気の診断や治療に必要であれば、使わざるを得ない場合も多々ありますし、使ったからといってすぐに問題になるというわけではありません。残存する腎機能をなるべく守るために、もし回避できるのであれば投与しない方が望ましいという意味ですので、主治医の先生と相談し、自己判断でやめるのは絶対にやめてください。

「腎臓に毒性のある薬剤を可能な限り避ける」 

これが将来透析が必要な事態を回避するために注意すべきことの3番目です。

 

 

将来はネフロンを増やすお薬とか開発されたり、再生医療などでどうにかならないかなぁとは思っていますが、少し遠い話かなと思います。小さく生まれた過去は変えようがありませんから、「自分の腎臓は自分で守る」の気概を持ってできることからしていきましょう。特にとても小さく生まれた方でしばらく検査をされていない方は、定期的な健診をしていくように主治医の先生と相談することをお勧めします。

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