妊娠中のストレスと赤ちゃんの性格変化

赤ちゃんは胎児期にお母さんのおなかの中(子宮内)で成長します。この時期に育った子宮内がどのような環境であったのかということが、赤ちゃんの生まれたあとの体質に大きく影響を与えうるということをご存知でしょうか?

このような事実はDOHaD学説という最新の医学でかなりの部分がわかってきています。本記事では、お母さんが妊娠中に受けるストレスが赤ちゃんに与える影響についての最新の知見を紹介したいと思います。

妊娠中のお母さんが強いストレスを感じると赤ちゃんの性格が変わる?

2017年に発表された海外からの論文によると、「妊娠中にお母さんがストレスに暴露されると、生まれてくる赤ちゃんが乳幼児期(2~3歳)に負の感情(恐れ、悲しみ、怒り、いらいら)が生じやすい性格になる」ようなのです。そしてこのような関係は、妊娠中にお母さんが微量元素(亜鉛やセレン)やビタミンを十分摂取していない場合に認められやすいことが示唆されています(Lipton LR, et al. Associations among prenatal stress. maternal antioxidant intakes in pregnancy, and child temperament at age 30 months. J Dev Orig Health Dis 2017; 8: 638-648)

「本当に?」と思う方もいるかもしれません。妊娠中のお母さんへのストレスが赤ちゃんの性格を変えるなんて、しかもそのリスクが妊娠中の十分な栄養摂取で軽減されるなんて、にわかには信じられませんよね。

もちろん、このような結果が本当に正しいのかどうかを明らかにするためには、今後別の研究者によって追試がなされていく必要があります。ただ、実は過去にも、ストレスによって赤ちゃんの遺伝子の働きが変化するということ自体は多くの研究ですでに報告されていますから、この結果は決して荒唐無稽なものではありません。

DOHaD 環境が遺伝子の発現部位を変えるメカニズム

例えば、過去の報告によれば、妊娠中にストレスに暴露されたお母さんから生まれたこどもは、「新しい経験に対してストレスを感じやすい」「つらい気持ちや恐れの気持ちから立ち直るのが苦手」というような特徴(difficult temperament)をもつことが多いことが示唆されています。

妊娠中のストレスが胎児になぜ影響を与えうるのか?

なぜ母体への妊娠中のストレスが児にそのような影響を与えうるのかは十分わかっていません。ただ、一つのメカニズムとして酸化ストレスがそれに関与しているのではないかと考える研究者もいます(この論文を執筆した研究者もそのような仮説をたてています)。

心理的ストレスは酸化ストレスの増加や抗酸化作用の減少と関連していることが報告されていますし、実際に抗酸化作用のある微量元素の十分な摂取が、胎盤や胎児の脳において生じている酸化ストレスや炎症を緩和しうることが報告されています。

妊娠中の女性への最大限の配慮を

妊娠中に好き好んでストレスを感じたいと思う母親などいないでしょう。極端なストレスでなければ問題がないのではという議論もあると思います。実際にどの程度のストレスであれば胎児に影響しうるのかということはよくわかっていないのですから・・・。ただ、この時期のお母さんへの過剰なストレスが、赤ちゃんのその後の将来にまで影響しうるとしたら、それは非常に重大な事実だと思うのです。

実は未熟児に対する出生後早期のストレス環境が、将来の発達に多大な影響を与えることがわかっており、これはディベロップメンタルケアという概念の中でもよく知られている事実です。早産児にとっての生後早期の環境というのは、正期産児の赤ちゃんにとっては胎児期にあたる時期なのですから、これには同じような意味があるのかもしれません。

翻って妊娠中の女性へのストレスについて考えてみると、文字通り赤ちゃんを守るためにも、妊娠中の女性には特別な対応が必要なのだと思います。そう、子育ては胎児期から始まっているといっても過言ではないのです。将来の児の健やかな成長のためには、ご家族だけではなく社会全体で、おなかの中にいる時から児を育んでいくような心もちが必要であると思っています。

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