未熟児で生まれたわが子をみて、無事NICUを退院できたけど・・・
「今後どのような問題が起こる可能性があるんだろう」と不安に思うご両親は多いのではないでしょうか?
この記事はそんな未熟児たちの将来のお話しです。
そもそも未熟児って?
「未熟児」という言葉は正しい医学用語ではありませんが、一般に早産で生まれた赤ちゃんや出生体重が小さく生まれた赤ちゃんを指して使われる用語です。
精子と卵子が受精してから0週1日、0週2日と数えていった場合に、40週0日が分娩予定日となり、正期産は37週0日から41週6日まで、早産は22週0日から36週6日での分娩のことをいいます。
22週未満で生まれてしまった場合・・・これは残念ながら流産ということになります。
日本の周産期医療は世界的に見てもかなり先進的で医療制度も整っており、その成績もよいので、施設によっては22週0日から救命を目指して治療管理をうけることができます。
出生体重でいえば、2500g未満で出生した児を低出生体重児といいますが、いまや低出生体重児の割合は全出生の9%以上です。
10~11人に1人は低出生体重児となるので、ここまで含めれば未熟児で出生することはさほど珍しくないことであるといえるでしょう。
NICUに入院する未熟児の主なパターン
NICUに搬送される未熟児には、大きく分けて3つのパターンがあります。
1つ目は、分娩がおさえられず、または回避できないため早産になる場合です。
例えば何らかの理由で陣痛が来る前に破水してしまうと(前期破水といいます)、羊水が少なくなって胎児が安全に子宮内で大きくなれなくなったり、羊膜絨毛膜炎といって胎盤に炎症が生じて陣痛がおさえられなくなったり、赤ちゃんが具合が悪くなってしまいます。
そのような場合には、分娩をおさえようとするのではなく、赤ちゃんが具合が悪くなる前に積極的にお薬や帝王切開で分娩にしてしまおうと考えることになります。
また、妊婦さんの中に子宮の頸管という部分が体質的に弱い人がいて(頸管無力症といいます)、赤ちゃんがそんなに大きくなる前に子宮口から出てきてしまいやすい人がいます。
このような人の場合、切迫早産となって分娩を回避できない場合があります。
二つ目は、子宮内での赤ちゃんの発育が悪い場合です(胎児発育不全といいます)。
例えば、胎盤の機能が悪かったり、臍帯のついている部位がよくなかったり、何らかの理由で子宮内での赤ちゃんの発育が悪い場合には、その程度に応じて分娩とせざるを得ない場合があります(帝王切開になることが多いです)。
特に赤ちゃんの成長が子宮内で止まってしまった場合や、臍を介してお母さんから赤ちゃんに流れる血液の流れに異常が出てきた場合は、分娩が考慮されることになります。
3つ目はその他です。
例えば多胎妊娠で早めに出さざるを得なかったり、妊娠後にわかった母親の病気の治療のため、もしくは胎児に何か問題があり治療のため、早く分娩とせざるを得ない場合などがあげられます。
また、胎盤のできた部位の異常である前置胎盤からの出血や、常位胎盤早期剥離からの出血など、お母さんと赤ちゃんの両方に危険が生じて、救命のために超緊急で帝王切開となるような場合もあります。
突然自分の子が未熟児として生まれ、NICUに入院せざるを得なくなったとすると・・・・
そんな時、ご家族は本当に不安な気持ちでいっぱいになることでしょう。
自責の念に駆られるお母さんも多くいるのではと思います。
「わたしのせいでこの子を未熟児にしてしまった」
「大きく生んであげられなくてごめんね」
本当はお母さんのせいでは決してないのですが、多くのお母さんはそのように考える様です。
「安心してください」
「大丈夫ですよ」
本当は皆にそういってあげられたらとは思うのですが、そうは言ってあげられない現実も確かにあります。
それでも以前と比較すれば、未熟児達の救命率は向上していて、元気に退院することができることが多くなりました。
体感的には、生まれつきの合併症のない児で、1500g以上の出生体重があればほぼ救命できる、元気に自宅に帰ることができるようになったと思います。
一方で、生まれた時から感染症や低酸素などの影響で調子が悪かった児、もともと重大な合併症をもって生まれた児などは、最善を尽くしても救命できないことがあります(これは正期産児であっても同じですが・・・)。
また、中には致命的な後遺症を残す赤ちゃんもいることが現実です。
超低出生体重児の救命率
出生体重が1000g未満の未熟児を超低出生体重児といいます。
このような未熟性の強い児においても、最近は多くの児が救命され、NICUから元気に退院することができるようになりました。
以下に日本における出生体重別の超低出生体重児のNICU入院中死亡率の推移についてのデータをご紹介します。
この数値は日本の主な周産期母子センターにおける平均の数値ですので、地域や病院の規模などによって多少異なることをご了承ください。
このグラフを見るとわかりますが、日本における超低出生体重児の救命率は5年毎の調査でかなり改善しています。
1000g前後の体重で生まれた場合のNICU入院中の死亡率は10%をきります。
出生体重500g前後のとても小さな児の救命率が特に向上してきており、2010年における500g未満で出生した児の死亡率は30~50%程度となっています。
この数値はあくまでも死亡率なので、救命できた症例の中には重大な合併症をもって退院したり、大きな後遺症を残すような児もいるのですが、そのような児は出生体重が小さくなればなるほど多くなります。
未熟児の長期予後
上記で紹介したように、最近は未熟児の救命率が向上してきていますが、それに伴って長期的な合併症が問題となっています。
例えば極低出生体重児(出生体重が1500g未満の児)は、学童期までに発達の遅れが生じやすく、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動症、学習障害など発達障害の頻度が高いことが報告されています。
また、成人期になっても小柄な人が多く、筋肉がつきにくく体脂肪がつきやすいなどの体質になりやすいことがわかっています。
そのような体組成の影響もあり、成人期には糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を発症するリスクが高いことが知られています。
慢性腎臓病を発症するリスクも高く、その一部は小児期から治療を要することになります。
未熟児医療の分野は、ただ救命すればよかった時代は終わり、長期的な合併症をいかに減らすかという課題が重要になってきているのです。
このような長期的な病気のリスクは、子宮内やNICUでの成育環境が大きく影響していると考えられるようになってきています(DOHaD学説について)
DOHaD学説は本サイトのメインテーマの一つです。
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