小児科医の視点で考えるインフルエンザの予防接種が大切な本当の理由

今年度もインフルエンザの流行期がやってきました。インフルエンザの流行期になると、熱が出た多くのこどもたちが病院にやってきます。一応流行期だし念のため検査しておこうかなと検査してみると…結構な割合でインフルエンザが陽性になりますから、やはりインフルエンザの感染力の強さを肌に感じます。

この記事では、小児科医の視点に立って、インフルエンザの予防接種が大切な理由を紹介したいと思います。

軽視されやすいインフルエンザの予防接種

この時期にこどもたちが発熱で受診した場合には、「インフルエンザの予防接種はしましたか?」と聞くことにしています。

「今年も2回しました」「毎年しています」という人もいれば、「していません」とか「例年はしているけど、予防接種しても毎年かかってしまうので今年はしませんでした」などとお答えになるご家族もいます。

確かに予防接種全般に言えることではありますが、予防接種してもかかってしまうということはありますよね。インフルエンザについて言えば、毎年予防接種が必要であること、自費診療になること、予防接種しても結構な頻度でかかってしまうことから、それなら受けなくてもいいや…と考える方もそこそこいるのではないかと思います。

ただインフルエンザは感染力が強く、発熱も無治療だと1週間近く続きますし、肺炎などを合併する頻度も高いことから、体力や呼吸機能に余力がない赤ちゃんやご老人、喘息などの呼吸器系の持病をお持ちの方にとっては重大なリスクにつながる感染症です。やはりこのようなハイリスク症例では、予防接種しておいた方が無難だと言えるでしょう。

予防接種しておけば、感染してしまった場合でも、重症化のリスクをかなり軽減できるからです。

未熟児で出生して在宅酸素を導入しているような場合も特に注意が必要でしょう。

ただし、インフルエンザ予防接種自体は生後6ヶ月以降からできますが、1歳未満の免疫獲得率は十分高いとは言えません。このような場合には、本人が予防接種すること以上にご家族やご兄弟など周りの人がしっかり予防接種することをおすすめしています。

だからインフルエンザの予防接種はしておいた方が良い

この時期にこどもたちが発熱で受診した際には、小児科外来でインフルエンザの予防接種をしたかどうか確認するようにしています。その理由は、予防接種した人の中にインフルエンザ脳症を発症する人がほぼいないことがわかっているからです。

特に持病のない健康なこどもにとって、もっと怖いインフルエンザの合併症は「インフルエンザ脳症」であると思います。発熱とともに痙攣や意識障害を起こし、亡くなったり後遺症を残すことも多い病気です。ぼくも過去にインフルエンザ脳症となった乳幼児を何人も見ましたから、その怖さを実感しています。そしてこの病気は現在の医療をもってしても直すことは容易ではないものなのです。

インフルエンザ脳症は病初期に治療を開始できるかが大変重要です。ただしインフルエンザ脳症を病初期に通常のインフルエンザと見分けることは必ずしも簡単ではありません。

予防接種をしていることがわかれば、インフルエンザ脳症となる可能性はほとんどないのですから、その情報は小児科医にとって大変重要です。その時点で見逃してはいけないインフルエンザ脳症の可能性がほぼなくなるわけですから……。

翻って自分の子供たちに当てはめて考えた場合にはどうでしょうか…。もちろんインフルエンザ脳症となる可能性はもともと低いわけですが、それでも完全に無視できる確率ではありません。予防接種することでその可能性を極限まで減らせると考えれば、絶対やっておいた方がよいと個人的には考えています。

それでもインフルエンザにかかってしまった場合には、自信を持って「インフルエンザ脳症にならなくて本当に良かった」と思うことにしています。予防接種をしていなければインフルエンザ脳症になっていたかもしれないと考えると、どちらにしてもハッピーです。

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