※現役小児科医が教える※風邪に抗生物質を使うべきではない4つの理由

こどもが風邪を引きやすい理由

「こどもは風邪の子、元気な子」…とはよく言ったもので、2〜3歳くらいまでのこどもはよく風邪を引きます。そして、保育園に行き始めたばかりのこどもはしょっちゅう熱を出したり、鼻を垂らしたりしているものです。

一般に、赤ちゃんは、お母さんのお腹の中にいる時に、お母さんから胎盤を通して“抗体“という免疫の力をもらっているので、半年くらいの間は比較的風邪をひきにくいのです。

しかし、生後半年を超えたくらいには、その免疫の効力がなくなっているため、このようなウイルスに接触すると途端に風邪などをひいてしまいます。

そして多くのお風邪のウイルスに暴露されて免疫の力を獲得するにつれて、大人のように高熱を出すようなことはなくなってきます。

風邪の原因

風邪の原因のほとんどはウイルスの感染症なので、その場合には抗生物質は全く効きません。

ウイルス感染症のほとんどは、基本的に免疫の力で治る病気で、薬で治る病気ではないのです。

風邪のお薬はつらい症状を和らげるためのお薬であり、ウイルスをやっつける作用などないのです。

抗生物質は、ばい菌をやっつけるお薬であり、全くウイルスには効きません。

最近はこのような知識を知っている方が増えたせいか、流石にやたらめったら抗生物質を出して欲しいというご家族は見かけなくなりました。

ただまだ小さい赤ちゃんが、熱が続いたりすると、やはり心配にはなりますよね。

念のため、抗生物質も出して欲しいというご家族は意外といるのではないでしょうか。

開業医さんの一部は、患者さんのご家族の不安軽減のために、また自分の診断に自信が持てない場合には、抗生物質を早めに処方する傾向があると思います。

実際に、ウイルス感染症は長引いてこじらせた場合には、ばい菌感染症を併発することはよくあるので、これを疑って、または予見して、抗生物質を早めに処方することは医師の裁量の範囲内であり、あながち間違いではないと思いますが、「そもそもほとんどの風邪に抗生物質は全く効かない」というのが大前提であり、それが風邪に抗生物質を使うべきではない最大の理由です。

重篤な薬剤アレルギー

日常的に小児に用いられる抗生物質でも、内服後に下痢などの副作用が生じることはそこまで稀な話ではありません。ただ、このような比較的軽症な副作用は、内服をやめれば症状は改善しますので、さほど心配する必要はないのかもしれません。

一方、抗生物質が原因となって非常に稀ながら重篤な薬剤アレルギーの症状が引き起こされる可能性があることをご存知でしょうか?意外と知らない人も多いのではないかと推察します。

これは、抗生物質にかかわらず、全ての薬剤に言えることですが、Stevens-Johnson syndrome(SJS)とか,中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)とか,薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)とか・・・なんだか難しい名前ですが、とにかく抗生物質を含むほとんどすべての薬剤を使用することにより、非常に稀ながらが、高熱がでて全身性に赤みが出て皮膚が剥離したり、壊死したり、時に命にかかわるほどの重篤な症状が引き起こされることが実際にあるのです。

臨床の現場で、風邪薬や抗生物質を処方するときにそんな話はいちいちしない場合が普通と思います。すごく稀な話ですし、そんなこと言っていると全てのお薬は内服できなくなってしまうので、日常診療の中ではそこまで意識する必要はないのですが、やはり大学病院などの高次医療機関にはそのような子が搬送されてくることもあり、必要のない薬は内服しない!というのも、やはり基本であると思うのです。稀であったとしても、不要な薬で重大な副作用が出ることは、やはり避けなくてはいけません。

これが、風邪に抗生物質を使うべきではない2つ目の理由です。

耐性菌を増やしてはならない!

耐性菌、増えているんですよね・・・・

耐性菌というのは、抗生物質が効きにくいばい菌のことです。

有名な菌だと、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とか、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)とか、カルバペネム耐性腸内細菌(CRE)とか・・・最近はその他にも様々な多剤耐性菌が問題となっています。

僕が勤務するNICUには、免疫の弱い赤ちゃん(特に未熟児)も多く入院しているので、通常は健康な人には問題とならない弱毒菌であっても、その抗生物質への耐性(抗生物質の効きにくさ)が問題になることがあります。

基本的に抗生物質をやたら使っていると、抗生物質で死ぬ普通の「ばい菌」は死滅して、抗生物質が効きにくい悪い「ばい菌」が残ってしまう、もしくは菌が抗生物質に強い「ばい菌」になっていく・・・というような理解でよろしいと思います。

現在はすでに、その耐性菌に効果のある新しい抗生物質がつくられていますので、ばい菌の耐性化によって抗生物質が効かずに死んでしまうというようなことは、現状ではまずないのではないかと思いますが、効果のある抗生物質を使用するのが遅れてしまったりすることにはつながるでしょう。

また、ばい菌と抗生物質は、新しい抗生物質ができると、しばらくしてそれが効かない「ばい菌」がでてくるという”いたちごっこ”の関係ですので、このような耐性菌をつくらないように、適正に抗生物質を使用することは、私たちみんなにとって非常に重要な視点であるといえます。

これが、風邪に抗生物質を使うべきではない3つ目の理由です。

抗生物質は将来の肥満のリスクを高める!?

抗生物質の使用が将来の肥満リスクを増加させることにつながるという報告があることをご存知でしょうか?

最近、腸内細菌の量や種類、バランスが様々な全身の病気の原因と関わっていることを示す報告が相次いでいます。

例えば、Aという腸内細菌を多く持つ人は、Bという病気になりやすくなる・・・Bという腸内細菌を多く持つ人は、Cという病気になりやすくなるなどの事実が最近の研究からわかっているのです。さらに、動物実験では肥満マウスの腸内細菌を含んだ便を別のマウスに食べさせると、そのマウスが肥満になるということまでわかっており、治療のための”便移植”というものまで現実化しつつあるのです。

ちなみに抗生物質で下痢をすることがあるのは、抗生物質によって善玉の腸内細菌が死滅してしまうことが理由です。

このような背景から、抗生物質の使用が将来の肥満リスクを増加させるメカニズムとしては、抗生物質の使用により腸内細菌のバランスがくずれるからであると推察されています。

このように、抗生物質の使用は、たとえ使用した時に体に大きな変化を及ぼすものではないとしても、長期的に見た場合に特定の病気のリスクを増やしてしまうことにつながりかねないのです。

これが4つ目の理由です。

抗生物質は適正使用が大切

抗生物質は大変素晴らしい薬剤です。

抗生物質がなかった時代には、多くのばい菌感染が死と直結するような不治の病になりかねなかったのですから、その有用性を否定する人などいないのではないかと思います。

抗生物質は適正に使用することがとても大切です。

ここでいう適正使用というのは「必要な時にはしっかり使う」ことと「必要のない時には使わない」ことの両方を指しています。

私たち小児科医は、長期的な病気のリスクまで考慮した治療というものを心がけたいものですし、ご家族におかれましては、その点もご理解いただければ幸いです。

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